経常収支がどのように決定されるのか理解しよう-公務員試験マクロ経済学
こんにちは、先輩!
こんにちは、カズ。今日は元気だね!
はい!先輩のおかげで経常収支が少しずつ分かるようになってきたので、経済学の勉強が楽しくなってきました。
おぉ、良かった!
ありがとうございます!ただ、経常収支がどのように決定されるのか色々と考え方が出てきて、ちょっと混乱しています…。
そうか、じゃあ今回は経常収支の決定方法についていくつか考え方を見てみよう!
経常収支とは?
公務員試験で出題される経常収支の決定方法を見ていく前に、そもそも経常収支とは何かを見ていきましょう。経常収支とは国際収支統計の一項目であり、公務員試験ではCA(current account balance)というように表されます。経常収支は国際収支統計では「貿易・サービス収支」「第一次所得収支」「第二次所得収支」の3つから成り立っていますが、公務員試験では簡単に「輸出額―輸入額」として考えてもらって大丈夫です。
よくニュースで経常収支の黒字・赤字という用語で出てきますが、黒字は「輸出額が輸入額を上回っている」ことで、赤字は「輸出額が輸入額を下回っている」ことになります。
ISバランス・アプローチとは?
経常収支について簡単に理解できたところで、どのように経常収支が決定されるのか見ていきましょう。一つ目に紹介するのは、「ISバランス・アプローチ」です。「ISバランス・アプローチ」とは、「三面等価の原則から経常収支を捉えようとする考え方」です。ここでIとは投資(investment)、Sとは貯蓄(Savings)を表しており、マクロ経済学のISバランス(総貯蓄は総投資に等しい)という考え方を使って経常収支を捉える考え方です。
「三面等価の原則」とは、GDPは生産面、分配(所得)面、支出面のいずれから見ても常に等しくなるという会計上の原則のことであり、ISバランス・アプローチでは分配(所得)面と支出面から見たGDPを使って考えていきます。
ここで、経常収支CAはCA=(X-M)、即ち「輸出額―輸入額」となります。つまり、分配面、支出面の式を使って、CAの式(X-M)「輸出-輸入」=の式を作ると、以下のようになります。
上記の式のように、経常収支は、民間貯蓄超過と財政収支の和に等しくなります。そのため、例えば、今の日本のように高齢化によって貯蓄が減少したとしたら(高齢期に貯蓄を切り崩して生活するため)、経常収支は悪化するということになります。また、減税を行うと、政府の収入であるTが減るため、ISバランス上は経常収支が悪化します。
ただし、ISバランス・アプローチでは各要素の因果関係までを表しているわけはなく、三面等価の分配面と支出面によって経常収支の相互関係を示しています。つまり、租税が増えると必ず経常収支が改善するという「原因」と「結果」の関係があるわけではないので、少し注意が必要です。
弾力性アプローチとは?
次に紹介する経常収支の決定を捉える考え方としては、「弾力性アプローチ」と言います。計算が多いので、これがなかなか覚えるのが難しいです。「弾力性アプローチ」とは、「輸出入の価格弾力性から為替レートの変化に対する経常収支の変化を捉えようとする」考え方です。ここでは、経常収支の式、経常収支CA=輸出EX-輸入IMを使います。
まず、この経常収支の式を上記のように変化分の式にします。次に、輸出額の変化分、輸入額の変化分の式にそれぞれ直します。輸出額はそもそも、「輸出財1単位当たりの価格P×輸出量X」から成り立ちます。他方、輸入額は「輸入財1単位当たりの価格P×輸入量M」から成り立ちます。以下、輸出額、輸入額をそれぞれ変化分の式にしていきます。
この時、変化分の式にする方法が分からない!という方もいると思いますが、元の式が掛け算の場合、足し算の式で変化分の式を表すことができます。ここでは出てきませんが、元の式が割り算の時は引き算の式で変化分の式を表すことができます。
ここまで経常収支の変化分の式から、輸出入の変化分の式を作ってきました。ここから何をするんだろう?と思うかもしれませんが、ここから別ページで紹介した「𝜺𝑿;輸出の価格弾力性」「𝜺𝑴;輸入の価格弾力性」を使っていきます。弾力性等の説明については、詳しくはこちらのページを見てください。
ここで、P*は外貨建ての輸出財の価格になり、Pは邦貨(自国通貨)建ての輸入財の価格になります。簡便化のため、自国通貨は邦貨、つまり日本円で、外貨はアメリカドルが例として公務員試験ではよく使われます。
次のステップからは、いくつかパターンに分かれます。一つは自国通貨(日本円)が増価(円高)した場合、もう一つは自国通貨(日本円)が減価(円安)した場合になります。今回は自国通貨が円高になった場合、つまり増価した場合についてみていきたいと思います。
まず自国通貨が1%増価したとすると、為替レートは当初1ドル=100円だとした場合、1ドル=99円になります。この時、アメリカへの輸出財の自国通貨建て価格は変化しないとすると(1個100円のチョコレートを輸出しているとした場合、日本円での販売価格100円は変えないとすると)、1ドルで輸出していたチョコレートは、1.01ドルになります。つまり、アメリカへの輸出財のアメリカドル建て価格は1%上昇したことになります。
先ほどの輸出の価格弾力性を見ると、為替レートの変化によって、外国通貨建て価格が1%上昇しているのでが+1となります。すると、𝜺𝑿=-となります。この式をの式に直すと、となります。
ここで、輸出額の変化分の式を見ると、輸出の際は、先ほど自国通貨建て価格は変化しないと仮定したため、は0になります。そのためとなります。
次に、輸入額の変化についてみていきたいと思います!自国通貨が1%増価した場合、自国への輸入財の外国通貨建て価格は変化しないとすると、自国への輸入財の自国通貨建て価格は1%変化(1個1ドル100円のチョコレートを輸入しているとした場合、自国通貨の増価によってドルでの販売価格1ドルは変わらないとすると、日本へ輸入した時99円になる)します。
先ほどの輸入の価格弾力性を見ると、為替レートの変化によって、自国通貨建て価格が1%低下しているので、が-1となり、𝜺M=となります。
輸出額の変化分の式の際と同様に当てはめてみると、となります。以上を元の経常収支の変化の式に当てはめてみると以下のようになります。
上記のように、自国通貨が増価したときに経常収支が悪化するためには、「輸出額の変化」を「輸入額の変化」を上回ればいいことになるため、>0がついています。これを変形していくと、「マーシャル=ラーナーの安定条件」の式が完成します。つまり、「弾力性アプローチ」とは為替レートの変化によってどのように経常収支が変化するかをマーシャルラーナーの安定条件を使って考える方法になります。「マーシャルラーナーの安定条件」については別のページに詳しく紹介してあるので、こちらのページを見てください。
アブソープション・アプローチとは?
最後に、アブソープション・アプローチというものを紹介していきたいと思います。「国内需要との関係で経常収支を捉えようとする」考え方のことで、アブソープション(absorption)とは、吸収という意味で、ここでは国民所得のうち、国内で需要されたもの(消費、投資、政府支出)をひいたものが輸出入に回るということを表しています。
用語は難しそうですが、やっていることは全然難しくありません!財市場の均衡条件Y=C+I+G+(X-M)を使います。ここで、Cは消費、Iは投資、Gは政府支出、(X-M)は輸出―輸入、つまり経常収支を表しており、Yは国民所得を表しています。
財市場の均衡条件を(X-M)=の式に直すだけです。ここでは、国民所得が国内総需要より大きければ、国外への輸出が上回っており、国民所得が国内総需要を下回っていれば、足りない分は輸入によって賄っていることが分かります。
最後に
いかがでしたでしょうか?経常収支は言っていることはそんなに難しくないのですが、公務員試験では後回しにされがちな範囲のため、多くの受験生が理解できていないと思います。ぜひこれを機会にマスターしてみてください!