IS-LM分析とは?-公務員試験マクロ経済学
先輩、こんにちは!この間はサークルの打ち合わせを欠席していましたけど、最近は忙しいのですか?
申し訳ない、最近は就活中で忙しくて...。
そうだったんですね。就活はどうですか?政府も積極的に公共投資をして景気も良くなっているっていうニュースを聞いたのですが。
確かに少し景気は良くなったって話は聞くけど、思った以上に景気は上向いてない感じだよね。
そうなんですか?じゃあ公共投資って無駄なんですか?
うーん、マクロ経済学では一概には無駄とは言えないけど、効果がないケースもあるね。「IS-LM分析」という分野で公務員試験でも出題されたりするけど、もう既に授業で習った?
ええっと、授業に出てきましたが忘れてしまいました...。
そうか、それじゃあ今回は「IS-LM分析」について勉強していこう!
財市場と金融(貨幣)市場とは?
「IS-LM分析」ではIS曲線とLM曲線を使って一国全体の経済を分析しますが、初めにIS曲線、LM曲線についてそれぞれ簡単に説明していきたいと思います。
まずIS曲線とは、「財市場が均衡する際の利子率と国民所得の組合せの集合」を表しており、縦軸に利子率i、横軸に国民所得Yをとる下記の図において通常IS曲線は右下がりの曲線になります。
次にLM曲線とは、「金融(貨幣)市場が均衡する際の利子率と国民所得の組合せの集合」を表しており、下記の図において通常LM曲線は右上がりの曲線になります。
ここで、「財市場」と「金融(貨幣)市場」という用語が出てきましたが、「財市場」とは「財やサービスをやり取りする市場」を表しています。人々の消費や政府の公共投資、企業の投資、貿易などのやり取りの場になります。他方、「金融(貨幣)市場」とは、「貨幣のやり取りをする市場」を表しています。「貨幣のやり取り」と財市場との違いが理解しにくいかもしれませんが、中央銀行が紙幣・硬貨を発行してそれらを民間の銀行とやり取りするのをイメージしてもらうとわかりやすいと思います。
貨幣市場でやり取りした紙幣・硬貨が民間銀行や政府を通じて財市場で財やサービスをやり取りする際に使われるため、財市場と貨幣市場は密接に関係しています。
そして、紙幣・硬貨を貸し借りする際に「利子率」というものが重要になってきます。「利子率」というのは、お金の貸し借りの際に、元本のほかにプラスアルファでやり取りするお金のことで、お金を貸した人にとっては収入になります。財市場と貨幣市場ではお金の貸し借りが行われ、「利子率」の大きさによって貸し借りする人の数が増減しお金のやり取りの総量が変わってくるため、利子率の違いによって一国全体の国民所得の大きさも変化してきます。
このように、財市場と貨幣市場それぞれで「財やサービス、貨幣」のやり取りを行ったとき、利子率iと国民所得Yが均衡するのが、上記の図においてIS曲線とLM曲線の交点となります。このIS曲線とLM曲線の図を用いて、財市場と貨幣市場に関連する様々な経済事象を分析するのがIS-LM分析になります。以下、公務員試験ではIS-LM分析についてどのような問題が出題されるのか見ていきましょう!
IS-LM分析とは?
マクロ経済学ではこれらIS曲線とLM曲線を用いて、利子率と国民所得がどの様に均衡するか、さらに貨幣供給量(マネーサプライ)を変化させたり、財政出動などを行うことでどの様に国民所得、利子率が変化するかを分析することがあり、これをIS-LM分析と呼びます。
公務員試験などで出題される際、出発点として以下のスライド1のようにIS曲線とLM曲線の均衡状態から始まることがあります。スライド1の当初均衡では、一国内における財市場と貨幣市場で同時に利子率と国民所得が均衡するのが点A、つまり利子率1%、国民所得100億円の時となっています。
図4;IS-LM分析
この交点から政策の効果を分析することになります。公務員試験では大きく2つの政策、即ち、財政政策と金融政策が出題されます。
まず財政政策について見ていきましょう。財政政策とは、政府が公共投資などの政府支出を変化させることで、公共投資を増やす時には財政出動、減らす時には緊縮財政と呼んだりします。上記のスライド2は財政出動を行ったケースになります。財政出動は財市場において政府支出を増やすため、IS曲線は右にシフトします。この時、物価水準Pなど一定とすると、LM曲線はそのままでIS曲線のみ右にシフトするため、シフト後の利子率iは上昇、国民所得Yは増加しています。そのため、スライド2において財政出動は国民所得Yを増加させる効果があるということになります。
次に、金融政策について見ていきましょう。金融政策にはマネーサプライMを増加させる金融緩和政策、マネーサプライMを減少させる金融引き締め政策があります。金融緩和政策の時には、スライド3のようにLM曲線が下方シフト(図では右へのシフト)します。この時、利子率iは下落しますが、国民所得Yは増加しているため、スライド3においては金融緩和政策は国民所得Yを増加させる効果があるということになります。
ちなみに、マネーサプライMを変化させる方法として、公務員試験などでは大きく3つの手段、公開市場操作、支払準備率操作、公定歩合操作の3つがあります。時々問われる場合があるため、用語は要チェックです!
クラウディング・アウトとは?
ここまで、IS-LM分析の基本のケースについて紹介してきました。ここからは、IS-LM分析でよく問われる部分について深く見ていきたいと思います!
まず一つ目に、「クラウディング・アウト」と呼ばれる作用があります。「クラウディング・アウト」とは、財政政策を行う際に起こり得る副作用のことで、財政出動を行い利子率が上昇してしまうことによって民間投資が減少してしまうことを言います。
図;クラウディング・アウトとは
上記のスライド1のように、もし利子率が変化しないとすると、IS曲線の右シフトによって250億円まで国民所得が伸びるはずですが、実際にはLM曲線も考慮に入れるため、LM曲線とIS曲線の均衡によって、120億円までしか国民所得は伸びなくなってしまっています。
このように、政府支出の増加によって国民所得は増加することはしますが、その分利子率も上昇してしまったことによって、当初政府が意図したほどの国民所得の伸びはないことを「クラウディング・アウト」といいます。利子率が上昇すると、企業はお金を借りづらくなるため、投資Iが減ってしまうため、120億円までしか国民所得が伸びなくなってしまいます。
図;ISバランス式
上記ではIS曲線について整理しました。公務員試験の経済学で重要なポイントとしては、プロセスを理解することにあると思います。利子率が高くなることによってなぜ国民所得が減少するのか上記で整理しているので、ぜひ参考にして下さい!
以上、財政出動を行うとクラウディング・アウトが起こることについて見てきましたが、ここで受験生の中には、「財政出動は国民所得を増加させるけど、利子率も上昇させてしまって民間投資も減らしてしまうから、金融緩和のほうが効果的なのではないの?」と思う人もいるかもしれません。確かに、金融政策の方が利子率も下がって企業の投資も促進されて国民所得が増加するから良いように感じるかもしれません。
もちろん、貨幣供給量(マネーサプライ)を無計画に多くしてしまうと物価上昇してしまってベネズエラのようにハイパーインフレを起こす可能性があるから良くないですが、ある程度であれば良いとされています。しかし、場合によっては金融政策が無効(国民所得を変化させない)となるケースがあります。公務員試験では頻出なので、以下、①投資が利子率に対して非弾力的なケースと②流動性の罠があるケースの2つのパターンについて見ていきましょう。
投資が利子率に対して非弾力的なケース
まず一つ目は、「投資が利子率に対して非弾力的なケース」です。この時、金融政策によってLM曲線がシフトしても国民所得Yは変化しないことになります。そもそも、「投資が利子率に対して非弾力的」とは何かというと、利子率が変化しても企業の投資に影響を与えないということを表しています。
このケースは現実の世界ではよくあるパターンで、中央銀行が貨幣供給量(マネーサプライ)を増加させて利子率が下がっても企業の投資が増えなくて国民所得が増加しないということがあります。「投資が利子率に対して非弾力的なケース」では、IS曲線は垂直な直線になります。これは、利子率が変化しても投資が変化せず、国民所得も変化しないためです。
流動性の罠とは?
二つ目は、「流動性の罠が存在するケース」です。この時も、LM曲線を右シフトさせても国民所得が増加しません。流動性の罠のケースは下記の図のようにLM曲線に水平な部分があるケースのことを言います。
通常マネーサプライMが増加すると、市中に流通する貨幣の量が多くなるため、利子率は下落します。しかし、流動性の罠のケースの際には、マネーサプライが増加しても人々が最低利子率を予想していて固定されてしまっているためにLM曲線が利子率の最低水準で水平になってしまっています。
①投資が利子率に対して非弾力的なケースと②流動性の罠があるケースでは、財政政策は効果的になります。特に「流動性の罠」の状態の際には、財政出動によりIS曲線が右シフトする時、利子率iは変化しないため、前述した「クラウディング・アウト」は発生しません。そのため、「流動性の罠」の状態の時には財政政策は極めて有効になります。
最後に
いかがでしたでしょうか?IS-LM分析に関して公務員試験で出題されやすい部分について解説しました。パターンとそのようになるプロセスを理解すれば、しっかりと記憶に定着すると思います。ぜひ頑張って下さい!