日本国憲法における国会に関する条文と国会の地位-公務員試験憲法を分かりやすく
今日から憲法の講義で「立法権」について勉強するようになったのですが、立法権を担当する「国会」について覚えることが多すぎて頭が混乱してしまっています…。
国会について勉強開始したんだね。憲法では、国会の地位や役割、原則とか覚えることが多いからね。
そうなんですよ。並行して過去問も解き始めているのですが、細かい部分で間違えてしまうことが結構多いです…。
なるほど。国会について全て覚えるのは大変だから、そうしたら今日はまず、憲法における国会に関する条文の全体像などを見ていこうか。
日本国憲法における国会に関する規定は?
日本国憲法は、立法権、行政権、司法権という3つの権力を分割し、それぞれ国会、内閣、裁判所という機関に担当させる権力分立制を採用しています。今回紹介する立法権は国会が担当することとなっていますが、日本国憲法では第4章の「国会」という章にその地位や役割、原則が規定されています。
そして、41条から64条までが第4章「国会」の規定となっています。
第4章は「国会の地位」、「国会の組織」、「議員の地位」、「国会の機関」、「会議の原則」、「国会の権能」、「議院の権能」の7つに分類できます。そして、これら憲法の規定は「国会法」や「公職選挙法」など別の法律によってより具体的に規定されています。ただし、公務員試験レベルでは「国会法」などの規定については出題されないので、ひとまず「憲法」の規定を理解することが問題を解く上で重要になります。
ただ憲法内の国会に関する論点だけでもこのページでは膨大になってしまうので、このページでは一つ目の「国会の地位」について説明していきたいと思います。
国会の地位とは?
憲法内において「国会の地位」について規定している条文は、第41条一つだけです。
国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
国会の地位に関する条文は、これ一つだけでとても短いです。しかしながら、この短い条文は、国会が①国権の最高機関である、➁国の唯一の立法機関であるという点を明確にしています。
国権の最高機関とは?
国権の最高機関とはどういう意味かについてですが、大きく2つの考え方があります。
違いについては上記の図に記載していますが、重要なポイントとしては、統括機関説をとると国会は国権を統括する地位を有し、法的な権限があるという考え方であるのに対し、政治的美称説は、国会には法的な地位はなく、政治的な美称にすぎないというスタンスになります。現在のところ政治的美称説が通説とされています。
ところで、なぜ国権の最高機関の定義が重要になってくるかと言うと、国権の最高機関として国会が具体的にどのように権限を行使できるかという範囲に関わってくるためです。例えば、憲法62条では、議院の国政調査権という権能を規定していますが、統括機関説をとるか政治的美称説をとるかによって国政調査権の範囲が異なってきます。
国政に関する調査を行い、これに関して証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求できる両議院の権能
統括機関説に立つと、国政調査権は国権統括のための独立の権能と解することができます。しかし政治的美称説に立つと、立法権や予算審議件、行政に対する監督権など議院に認められた権能を適切に行使するために認められた権能であると解することができ、国政調査権を行使できる範囲が変わってきます。通説は政治的美称説であり、国政調査権も議院に認められた権能を行使するための権能であるという考え方が主流です。
唯一の立法機関とは?
次に、唯一の立法機関とはどういう意味かについてですが、立法機関の「立法」や「唯一」とはどういう意味なのかという2つの論点があります。まず、「立法」の意味についてですが、狭義説と広義説2つの考え方があります。
難しく感じるかもしれませんがそんなことはありません。狭義説は、立法という行為を国民の権利を制限・義務を課す法規範の定立だけに限定していますが、広義説は権利の制限・義務を課すだけではなく、権利の付与であったり義務の免除など立法を広くとらえています。実際、生活保護や児童手当の給付などは法律に基づいてサービスが提供されていますが、これらも権利の付与に入ります。そのため、通説としては「立法」は広義説の立場でとらえられています。
また、「唯一の立法機関」であるとは、国民の権利義務に関する法規範の定立は、憲法に定められた例外以外は常に国会によってなされなければならないという国会中心立法の原則と、国会以外の機関の関与を要さず、国会の議決のみで成立させることのできる国会単独立法の原則を含んでいます。
国会中心立法の原則とは、「国会以外による立法は原則として許されない」という原則になります。これは、法律は国民の権利を制限したり、義務を課すことがあるため、国民によって選ばれた人々で構成される国会で決められるべきと考えられるためです。
しかし、憲法は国会中心立法の原則の例外を規定しています。それが、両議院による議院規則の制定や、最高裁判所の規則制定権です。これらは、各機関の自律権の尊重という観点から憲法が特別に付与した例外になります。
また、国会単独立法の原則とは、「国会による立法は、国会以外の参与を必要としないで成立する」という原則になります。この原則にも、憲法が規定した地方自治特別法による例外が存在します。地方自治特別法とは、国会の議決の後にその地方公共団体の住民投票が行われ、そこでの承認がなければ成立しないとする特別法です。これは国全体ではなく、ある特定の地域にだけ適用される特別な法律について、その地域の住民の賛否を問うための法律になります。憲法95条にて地方自治特別法を認めているため、国会単独立法の原則の例外となります。
憲法13条の幸福追求権と新しい人権とは?-公務員試験憲法を分かりやすく
今日憲法の講義で「幸福追求権」という用語が出てきたのですが、「幸福追求権」って一体何なのでしょうか?言葉が抽象的すぎてよく分かりませんでした…。
「幸福追求権」って抽象的だし憲法を始めた当初は分かりづらい言葉だよね。しかも「幸福追求権」はテクノロジーの進展などのために、新たな権利も要求されているから結構複雑化してるし…。それじゃあ今日は、「幸福追求権」について具体的に見ていこうか!
幸福追求権とは?
日本国憲法は、全ての国民に対して基本的人権を保障しています。基本的人権とは全ての人々に当然に認められる権利のことを言い、表現の自由や経済的自由など様々な権利が認められています。
多種多様な権利が存在していますが、日本国憲法では憲法13条で「幸福追求権」という権利も認めています。
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
13条の条文を見ると、とても抽象的で「一体どんな権利なの?」と感じると思います。実は、この抽象的な規定は明文化されていない新しい権利を導き出す根拠としての役割を担っています。
幸福追求権の意義
憲法含め全ての法律についてもそうですが、「ルールはもっと分かりやすい明確に規定してほしい!」と思う方は多くいると思います。実際、私も社会人になってから法律を扱うようになったため、公務員試験対策中は「なんでこんな分かりにくい条文なの?」と感じることも多くありました。しかしながら、現実社会はとても複雑であり、法律で規定しきれない様々なケースがあります。そのような規定しきれないケースで対応できるようある意味抽象的な文言にすることによって解釈に幅を持たせることで、実際のケースに対応しています。
そして、憲法制定当時には想定できなかったような人権侵害に対して対応できるような根拠として、憲法13条の規定が抽象的であることに重要な意義があります。この幸福追求権によって基礎付けられる個々の権利は、裁判上認められるものについては人権侵害に対し救済を受けることができるとされます。
幸福追求権に基礎付けられる新しい権利は?
テクノロジーの進展や、人権意識の醸成に伴って新たに基本的人権であると主張されているものとしては、以下のような権利があります。
上記の中には裁判所が明示的には認めていないものもあり、新しい権利として保障されるべきか否かの争いはありますが、判例で認めている権利も多くあります。
プライバシー権とは?
まずプライバシー権とは、自己に関する情報をコントロールする権利になります。別の定義として、私生活をみだりに公開されない権利とする見解もありますが、国家やマスメディアによる過度の個人情報の収集・管理に対抗する権利として、「自己に関する情報をコントロールする権利」であると広く解されています。
肖像権とは?
肖像権は、プライバシー権の一種として最高裁に認められた権利になります。肖像権とは、個人の容ぼう等を承諾なしに撮影されない自由や公表されないよう主張できる権利のことを言います。
実は肖像権にはプライバシー権としての側面とパブリシティ権としての側面という2つの側面があります。
パブリシティ権とは、有名人の氏名や肖像から生じる経済的価値を排他的に持つ権利のことを言います。例えば、ある商品広告について「有名人の○○も愛用!」と書くのと、何も書かないのでは信頼性などの面で大きく異なってくると思います。このように、有名人であることを理由に経済的価値が生じることが多くあります。しかし、ネット上では、その有名人から承諾を得なくても無断でその人の写真や名前を使うことができてしまい、有名人にとって損失となってしまいます。そこで判例では、有名人の経済的価値をパブリシティ権として保障されるものとしています。
名誉権とは?
そもそも名誉とは、品性や名声、信用など社会的評価のことを言います。名誉権とは、それら社会的評価のことを言い、幸福追求権から名誉権の保障が導かれています。
名誉権に関して重要な判例としては、「北方ジャーナル事件」があります。北方ジャーナル事件では、名誉権と表現の自由の保障とが衝突し、どのように調整するかが論点となりましたが、判決では表現の事前差し止めが認められ、名誉権が判例上認められていることが分かります。
自己決定権とは?
自己決定権とは、個人が一定の個人的事柄につき、公権力から干渉されることなく、自らが決定することが出来る権利のことを言います。具体的には、学校における髪型の自由や校則によるバイク制限、輸血拒否などがあります。
これら3つの論点は公務員試験によく出る判例になりますが、自己決定権というのは幅広い分野に関しての自己決定があるため、自殺の問題など様々な問題が自己決定権に関わってきます。
環境権とは?
自然環境を守る権利や、より良い環境で住むための権利などの環境権も学説上広く認められている新しい権利です。例えば、自然環境の破壊や飛行場建設などによる騒音は、より良い環境で住むことを阻害する要因となります。また、自宅の隣に大きなビルを建設されてしまうと日が当たらなくなると、ストレスや病気の原因になりますがこれも快適に住むための弊害となります。
このような問題に対して、基本的人権の侵害であると主張するための根拠が環境権となります。しかしながら、学説上は広く認められていますが裁判所の判決では未だ環境権を具体的な権利として認められていません。公務員試験では、この点よく択一問題で出題されるので注意が必要です。
外国人が基本的人権を享受できる範囲は?-公務員試験憲法を分かりやすく
最近公務員試験対策のために憲法で基本的人権について勉強しているのですが、憲法11条で「国民は基本的人権を享受できる」とありますよね?国民って日本国民のことだから、外国人は基本的人権を享受できないってことでしょうか?
勉強していて偉いね。確かに憲法11条にはそう書いてあるから、日本人と比べて日本で外国人が保障される基本的人権は制限されてしまうよ。でも全く保障されないというわけではなくて、保障される範囲は公務員試験でもよく出題されるから、今日は一緒に見ていこう。
基本的人権とは?
基本的人権とは、全ての人々に当然に認められる権利のことを言い、具体的には自分の言いたいことを発信できる表現の自由であったり、自分の住みたい場所に住む居住権などの権利を言います。何が基本的人権なのかは国によって異なりますが、日本国憲法では、第3章に規定されているように、以下のような権利が基本的人権として、国民全てが当然に主張できる権利になります。
日本国憲法に規定される基本的人権は、上記のように4つに大別されます。一つは、「自由権」と呼ばれる権利であり、思想・良心の自由や職業選択の自由など国家から強制されない自由になります。
次に、「社会権」という権利は、生存権や教育を受ける権利など、国家によって保障してもらう権利になり、「自由権」とは性質が異なります。三つ目は「参政権」ですが、これは「受益権」とも呼ばれ、請願権や裁判を受ける権利があります。最後に、「その他の権利」とは、アクセス権やプライバシー権など社会の進展に伴って保障してほしいと要請されるようになった新しい権利になります。
人権の性質は?
人権は、以下の3つの性質を持っているとされています。
まず一つ目は、固有性という性質になります。人権は、憲法や天皇から与えられるものではなく、人であることにより当然に与えられる権利であるという考え方になります。
二つ目は、不可侵性という性質になります。人権は、公権力などによって侵害されることのない、「侵すことのできない永久の権利」という性質であるという考え方です。しかし、無制限に認められるというわけではなく、他の人の人権との兼ね合いの結果、「公共の福祉」によって公権力によって人権が制約されることもあります。
三つ目は、普遍性という性質になります。人権は、人種、性別、身分などの区分に関係なく、広く保障されるという考え方です。ただし、後述するように外国人など合理的な区別がなされる結果、人権が制約されるというケースはあります。いずれにしても、日本国憲法は上記3つを兼ね備えた権利を人権と定義しています。
外国人が保障される人権の範囲は?
日本国憲法は、第11条で「国民は、すべて基本的人権の享有を妨げられない」と規定しており、ここでいう国民とは、「日本国民」を指すため、外国人の基本的人権は保障されないのか?という疑問が出てくると思います。
人権の性質である固有性や普遍性に照らして、外国人にも平等に人権が保障されるべきです。そのため、憲法で規定される基本的人権の保障は外国人にも等しく及ぶといする立場が支配的です。しかしながら、予算の限界など国家運営の関係上、日本に住む外国人は、日本人と比べ享受できる基本的人権の範囲が制限されています。
下の表を見てください。まず日本人は当たり前ですが、全ての基本的人権を享有できます。しかしながら、日本における外国人の基本的人権は、一定程度制限されてしまいます。また、外国人については、定住外国人と一般外国人に分けて考えています。
定住外国人とは、学説上様々な定義がありますが、永住者を定住外国人とする説が有力です。一方で、短期滞在であったり永住者でない外国人は一般外国人として定義されます。なぜこのように2つに分類して考えるかと言うと、日本に一定期間以上住む外国人が、来日して数ヶ月もしないような外国人より基本的人権の制限が緩和されるべきと考えられているからです。
まず、一般外国人には参政権や社会権、入国の自由などの基本的人権が制限されます。なぜこれらの権利が制限されるかというと、まず参政権については日本の政治に外国人が介入するのは好ましくないためです。また、社会権とは生活保護などの社会保障を受ける権利のことですが、財源にも限度がある中で、税金をこれまで払ってこなかった外国人にまで保証することが困難だからです。また、入国の自由ですが、これは外国からテロリストなどが入国しないよう水際対策として必要な場合があるためです。しっかり説明しようとすると理由はもっと詳細になりますが、とにかく安全上や政治上、行政運営上の理由などから一般外国人の人権が一定程度制限されます。
一方で、定住外国人の場合は、一般外国人と異なり社会権や入国の自由が保障されています。というのは、定住外国人は生活の拠点が日本であり、簡単に母国に戻れとも言えない部分があったり、これまで定住者として税金を日本で納めてきたりなど一般外国人と事情が異なるためです。さらに、生活の拠点が日本であるため、入国の自由が認められないと住み慣れた場所に戻ることもできないので、入国の自由も保障されています。
しかしながら、定住外国人であっても国政選挙権、国政被選挙権は制限されています。これらは国家の政治に関わる大事な部分であり、日本国民が決めるべきだという考えからです。ただ、地方選挙権などは認められているとするのが判例の考え方です。これは、定住外国人もその地域で長く生活してきており、地域をよりよくするための選挙権は認めてもよいというスタンスだからです。
日本国憲法における国民の要件と国籍法について-公務員試験憲法を分かりやすく
憲法の講義を受講している時にふと疑問に思ったのですが、憲法上の「国民」の定義ってどうなっているんでしょうか?在日外国人などは長く日本で暮らしていても国民ではないですよね?
そうだね。憲法上の「国民」とは、日本国籍を持つ者のことで、詳しい要件は「国籍法」という法律に基づいて決定されるんだけど、憲法上にも日本国民の要件や日本国籍の離脱に関する条文があって、憲法を学ぶ上での前提知識になるから、今日は憲法における国民の要件について見ていこうか。
憲法における国民の要件は?
日本国憲法では、第11条で「国民は、すべて基本的人権の享有を妨げられない」と規定しているように、国民に対する基本的人権を保障しています。しかし、「国民」という定義は国によって異なります。そこで憲法では、第10条で「日本国民」とはどういう人々のことなのかを定義しています。
日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
第10条で「日本国民」の定義をしていると言いましたが、「あれ?要件を法律で定めるって書いてあるだけ?」と思ったかもしれません。現実には様々なケースがあるため、一言で「日本国民とは○○な人たちです」と言うことは困難です。そこで憲法は、憲法の規定内ではなく、別の法律によって日本国民の定義を細かく規定するとしています。
国籍法とは
憲法第10条の規定に則って、日本では「国籍法」という法律で「日本国民」の要件を規定します。現在の国籍法は1950年に施行・公布されたものであり、国籍法の中身は大きく①国籍の取得と、➁国籍の喪失という2つに分けられます。
国籍の取得
まず、国籍法において国籍の取得の方法としては、①出生による国籍取得と➁帰化による国籍取得があります。①の出生による国籍取得ですが、世界には「血統主義」と「出生地主義」と言う2つの考え方があります。
2つの違いは上記に書いてある通りですが、日本は血統主義を採用しています。つまり、両親のどちらか一方が日本人であれば、その子どもは日本国籍を取得できるということになります。
また、➁の帰化による国籍取得という方法もありますが、帰化とは、元々外国籍であった外国人が一定の条件の下で日本国籍を取得できる制度です。帰化するための条件としては、国籍法第5条より以下の条件があります。
原則は上記の条件を満たすことが帰化の前提条件となります。しかし国籍法には、簡易帰化と呼ばれる制度もあり、日本人との親戚関係があるなど一定の条件の下で、上記の帰化条件が緩和されることがあります。
国籍の喪失
一方で、国籍の喪失の方法としては、①死亡と➁国籍離脱という2つの方法があります。➁の国籍離脱とは、外国への帰化や、日本と外国2つの国籍を持つ重国籍の人が外国の国籍を選択する場合などのことを言います。特に日本国籍離脱の権利は、憲法22条第2項でも保障されている権利となります。
憲法における戦争の放棄の規定-公務員試験憲法を分かりやすく
この間憲法9条の戦争放棄や交戦権に関するニュースを見ました。憲法の基本原理の一つは「平和主義」でとても重要な部分なのに、公務員試験ではほとんど出題されませんよね。これってどうしてなんでしょうか?
確かに公務員試験では出題頻度は高くないね。これは戦争放棄の規定が第2章第9条にしかなくて条文の数が多くないということもあるんだけど、第9条はかなり政治的な内容で議論のある部分でもあるから出題しにくいというのもあるんだと思うよ。
なるほど、そういうことだったんですね。ということは、全く戦争放棄の章については全く勉強しなくても大丈夫ということでしょうか?
勉強しなくても他でカバーすれば大丈夫だけど、他のトピックにも関連してくるトピックでもあるから、時間があるならしっかり勉強しておくのがいいと思うよ!
憲法における平和主義とは?
日本国憲法の最終目標は、一人ひとりの「個人の尊厳」にあります。その「個人の尊厳」を守るため、憲法は3つの基本原理を据えています。
日本国憲法の3つの基本原理は、「国民主権」、「基本的人権の尊重」、「平和主義」となっています。今回紹介する戦争放棄の規定は特に、「平和主義」という基本原理に基づいて規定されている条文になります。
「平和主義」は、第二次世界大戦の反省を踏まえ、再び戦争の惨禍が起こることがないようにという平和への希望が込められています(憲法前文)。なぜ「平和主義」という原理が「個人の尊厳」に結びつくのかと言うと、個人の尊厳の確保は平和の確保によってのみなされるからです。例えば、学問の自由(23条)や生存権(25条)、財産権の保障(29条)など全ての人が有する基本的人権は平和な状態によってこそ保障できます。そのため、「個人の尊厳」を守るためには「平和主義」が重要な原理となってくるのです。
戦争の放棄とは?
日本国憲法は全11章103条から成る法規になります。
この中で、「平和主義」に大きく関わる章は、第2章の「戦争の放棄」という章になります。第2章と章立てされていますが、第2章は条文が第9条一つのみとなっています。
①日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
➁前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
憲法第9条は、2つの項から構成されています。第1項は、戦争や武力による威嚇・行使の放棄、第2項は戦力の不保持・交戦権の否認について言及しています。
戦争放棄の解釈
9条第1項は、戦争や武力による威嚇・行使の放棄について言及しています。しかし条文上では、戦争や武力行使・威嚇を「国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と規定しており、「国際紛争を解決する手段として以外なら、戦争などは認められるの?」と思う方もいると思います。実際、戦争放棄の範囲については人によって解釈が異なり、様々な説があります。公務員試験の出題はほぼありませんが、解釈に関する3つの説について見ていきましょう。
まず前提として、日本から攻撃を仕掛ける「侵略戦争」はどの説・立場をとっても禁止(放棄)されています。一方で、他の国が日本へ攻撃を仕掛けてきた際の反撃としての「自衛戦争」については、解釈が分かれています。
A説
一つ目は、自衛の手段としての武力行使は認められているという立場です。第1項の「国際紛争を解決する手段として」の戦争は、「侵略戦争」のことを表しているため、「自衛戦争」は認められるという考え方になります。現実として、他国から攻撃を受けたのに反撃してはいけないとなってしまうと国を維持できなくなってしまいますし、国民の生存を脅かされてしまいます。そのため、自衛の手段としての戦争は放棄していないというこの立場が通説となっています。
B説
二つ目は、自衛戦争自体も第1項の文言から放棄しているという立場になります。「国際紛争を解決する手段として」の戦争を、「侵略戦争」だけでなく、「自衛戦争」も含むという考え方です。他国から攻撃された場合、外交ルートや国際世論に訴えるなどして攻撃をやめさせるという対抗策をとることになると思います。理想論としては良いのでしょうが、実際に日本が攻撃された際、抑止力が働かないので現状では通説とはなっていません。
C説
三つ目も、自衛戦争自体も放棄しているという立場になりますが、第1項の文言から導かれるのではなく、第2項の文言から自衛戦争自体も放棄しているという考え方になります。C説では、第1項の「国際紛争を解決する手段として」の戦争には、「自衛戦争」は含んでいませんが、第2項で「戦力の不保持」や「交戦権の否認」をしているため、自衛戦争を行うための手段がそもそもないからという考え方になります。
学者や裁判所などはB説かC説かどちらの解釈が適切かで議論になるのでしょうが、私みたいな一般人にとってはB説もC説も自衛戦争を放棄しているという結論自体は変わらないですし、いずれにしてもA説の自衛戦争は放棄していないという立場が通説になるため、3つの説があるんだなぁくらいでいいと思います。
自衛戦争に集団的自衛権行使は含まれるか?
公務員試験の憲法科目の範囲では出題されませんが、教養の時事で出題されやすいのが「自衛戦争に集団的自衛権行使は含まれるか?」という点です。集団的自衛権についての詳細は、「集団的自衛権と集団安全保障の違いって何?」というページを見てもらえると理解できると思いますが、簡単に言うと「ある国が他国に攻撃された際に、第三国が共同で反撃する国家の権利」になります。例えば、日本が他国に攻撃された際、直接的な被害を受けていない韓国やアメリカが日本の要請に基づいて武力行使を行うことが、(韓国とアメリカの)集団的自衛権の行使となります。
日本の歴代内閣は、「日本も集団的自衛権は持っているが、行使することは憲法上許されない」という立場であったため、例えば韓国が他国に攻撃され、日本が援助要請を受けたとしても、憲法の規定から共同で反撃行動は取れないという立場でした。
しかし、2014年に安倍内閣はこの憲法解釈を変更し、集団的自衛権発動も憲法上許されるとする閣議決定を行いました。もちろん無制限の行使ではなく、以下の3要件を満たした場合に集団的自衛権の行使が可能であるとしています。
この憲法解釈の変更が良いか悪いかまでは公務員試験では問われませんが、集団的自衛権の発動要件が定められたという点は時事問題で出題されるのでよく覚えておく必要があります。特に、2014年より前からも日本が直接攻撃を受けた際には、個別的自衛権に基づいて反撃できるという解釈は変わっていないので、個別的自衛権と集団的自衛権を混同しないよう注意が必要です。
戦力の不保持・交戦権の否認
憲法第9条2項では、戦力の不保持・交戦権の否認が規定されています。第2項では「前項の目的を達成するため」、戦力の保持はしないとされており、一切の戦力の保持が禁止されている説が通説であり、従来政府が取ってきた見解も通説通りとなります。
「それじゃあ自衛隊も禁止されるんじゃない?」と思う方もいると思いますが、政府は、自衛のための必要最小限度の実力は第9条の「戦力」には該当せず、現在の自衛隊も憲法の禁ずるところではないという立場をとっています。
また、交戦権については、国際法上交戦国に認められる権利(相手国の軍事施設の破壊、船舶の臨検、拿捕等)を指す説と、広く戦争を指す権利を解する説などがあり、立場によって放棄した交戦権の範囲が異なります。
・日本国憲法は「個人の尊厳」を守るため、「平和主義」を規定している。
・「平和主義」達成のため、第2章では「戦争の放棄」が規定されている。
・第9条は、①戦争の放棄、➁戦力の不保持・交戦権の否認を規定している。
憲法における天皇制について-公務員試験憲法を分かりやすく
公務員試験の憲法の講義を最近受講し始めたのですが、憲法第1章の「天皇」の部分は先生が「試験には出題されることはほとんどないからスルーして大丈夫」と言って触れられませんでした。でも、スルーされると気になります…!
先生の言う通り、試験ではほとんど出題されない条文だから、勉強する必要はないけど、確かに天皇制って憲法にどう規定されているのか気になる部分ではあるよね。それじゃあ今日は、教養として憲法の天皇制の規定について理解できるようにしようか。
憲法における天皇制の条文
日本国憲法は、全11章103条から成る日本における最高法規になります。全11章の内容から構成されていますが、第1章と一番初めの章で天皇制について触れられていることからも、憲法において天皇制の規定はとても重要であることが分かると思います。
第1章の天皇については、第1条から第8条まで全8つの条文にて規定されています。これら8つの条文は、以下のように天皇の地位について規定しています。
憲法には、「象徴としての地位」、「国家機関としての地位」、「私人としての地位」、「公人としての地位」と大きく4つの地位について記載されています。上の図のように、天皇の地位に関する4つの側面について、各条文で具体的に記載されています。
象徴としての地位とは?
憲法第1条では、天皇が日本国の象徴であり、象徴としての地位は日本国民の総意に基づいていると規定しています。
戦前の明治憲法下においては、天皇の地位は神によって与えられたものとして神格化された地位とされていました。しかしながら、戦後GHQの命によって、天皇の地位は神ではなく国民の総意によって与えられた地位として、非政治的な存在として定義しました。つまり、場合によっては天皇制の廃止のように、国民の意思によっては改廃も可能となっていることを意味します。
公人としての地位とは?
憲法第2条では、皇位は世襲制であること、皇室典範に基づいて皇位が継承されることなど公人としての地位を規定しています。
世襲制は、日本国憲法の平等の理念とは相反するものではありますが、天皇制を維持するにあたっての例外となっています。また、皇室に関するルールや皇位継承に関するルールなど具体的な規定は、皇室典範という法律で記載されています。
国家機関としての地位とは?
憲法第3条から第7条の条文は、国家機関としての天皇の地位や役割を規定しています。天皇は憲法によって政治的な行為は禁止されていますが、第4条より一方で形式的・儀礼的行為である国事行為は認められています。しかしながら、第3条で規定されているように、この国事行為であっても内閣の助言と承認が必要とされています。
さらに、第5条では、摂政を置いた際の国事行為について記載されています。
さらに、第6条、第7条では国事行為の具体的内容が記載されています。
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。
公務員試験で天皇に関する出題はほとんどでないと話しましたが、憲法第6条、7条の国事行為については内閣(行政権)の範囲とも絡んでくるため、暗記は不要ですが理解しておくべきポイントとなります。
私人としての地位とは?
憲法第8条では天皇の私人としての地位として、皇室の財産について規定しています。
皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。
憲法は、皇室財産を国に属する財産としています。もちろん、皇室の財産であっても純粋に私的生活のための財産は皇室財産には含まれず、私有も可能ではありますが、皇室財産やその費用は、国の予算に計上して国会の議決を経る必要があります(憲法88条)。
このように、皇室財産を国の民主的コントロールの下に置くことによって、皇室の権力集中や特定の利権との関連を防止しています。
三権分立とは?日本国憲法による統治機構の仕組み-公務員試験憲法を分かりやすく
今日の憲法の講義で三権分立について先生に質問されて、中学生の時に社会の時間に勉強したような気がするのですが全然覚えてなくて、答えられませんでした。
中学校の時に勉強した内容なんて忘れちゃうこともあるししょうがない。でも、三権分立は公務員試験の憲法で必須の知識になるからちゃんと復習しておこうね。特に、三権分立は国家機関の暴走を防ぐ役割もあるから、公務員として覚えておくべき知識だよ。それじゃあ今日は、統治機構の仕組みと三権分立について見ていこう。
日本国憲法における統治機構に関する規定は?
日本国憲法は、①天皇や戦争の放棄などについて規定した総論、➁国民の権利や義務について規定した基本的人権部分、③国会や裁判所など国家機関の仕組みや役割などを規定した統治機構の3つに大別することができます。
特に、三権分立など統治機構の仕組みについて記載されている部分は第4章以降の条文になります。
三権分立とは?
日本国憲法の最終的な目標は、個人一人ひとりの尊厳を守ることになります。個人の尊厳を守るため、国家の運営や、国家権力の濫用を阻止するためのルールが規定されています。特に、実際の行政運営を行う内閣が暴走しないよう国家権力を立法権、行政権、司法権という3つに分けて、それぞれを国会、内閣、裁判所に担当させることによって権力を一箇所に集中させないような仕組みを作り上げています。
立法権とは
まず、国民によって選ばれた代表者たちで構成される国会が立法権を担当します。憲法41条は、「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である」ことを規定しており、国民の意思がダイレクトに反映される機関として重要な地位を占めています。
行政権とは
次に、行政権は内閣によって担当されます(憲法65条)。「行政」と言うと、一般的には省庁や地方自治体など様々な機関の総称として使われますが、憲法上の「行政」は、控除説を採ると「統治権の中から立法権と司法権を除いたものである」とされています。
また、内閣とは、国の行政機関を担当する執行機関であり、内閣総理大臣と他の国務大臣とで構成される合議体のことを言います。つまり、実際の実務は各省庁が行いますが、行政権自体は内閣に属しており、内閣の決定によって行政活動が行われることとなります。
司法権とは
司法権は、裁判所に属し、具体的な争訟に対し法を適用する国家作用になります。司法権も国民による一定の民主的コントロールは必要ではありますが、高度な専門性や中立的立場の必要性から国民の世論が直接反映するようなシステムは妥当でないとされます。そのため、司法権は非政治部門として、国会と内閣の政治部門とは切り離されています。
議院内閣制とは?
日本国憲法の基本原理は国民主権であり、国民の意思によって国家が運営される必要があります。国会、内閣といった政治部門に区分される機関が国民の意思に基づいて運営されるようにするための制度として、議院内閣制が採用されています。
国会議員は、主権者である国民によって選ばれた代表であるため、国民の意思がダイレクトに反映されます。そして、内閣の構成員の多くは国会議員であり、国会を通じて間接的に国民の意思が反映されています。
日本国憲法の下で、国会が法律を制定し、内閣が責任を持って執行するという、国会と内閣の関係を明確にした枠組みを議院内閣制と言います。このように、政治部門において立法府と行政府の役割を明確に分けることで、民主的コントロールを維持しているのです。