外交官は違反をしても捕まらない?外交関係条約から見る不逮捕特権の根拠-国際法を分かりやすく
最近、他国の外交官が外交特権を理由に駐禁の違反金を支払わないというニュースを見たのですが、どうして払わなくても問題にならないのですか?
国を代表する外交官なんだから、しっかりと相手国のルールは守ってほしいという気持ちはあるよね…。でも、国同士で取り決められた国際法というルールにのっとって、そういったことが認められているんだよ。実際には、外交官や領事官などの対象や犯した犯罪の重さによっては逮捕などが認められることがあるんだけど、通常外交官には裁判が免除されたり逮捕されなかったりなどの特権が認められているよ。
そうなんですね…。知らなかったです…。
国際関係や国際法について勉強をする機会がない人にとっては理解しにくいところだよね。そしたら今日は、外交関係条約や不逮捕特権の根拠について理解できるようにしようか!
外交特権の根拠となる外交関係条約とは?
外交官や領事官など特定の外国人が逮捕されない根拠は何でしょうか?国際社会では、国によってルールや習慣が異なっているため、国同士で条約という共通のルールを設定します。そして、派遣先(=駐在する国)での外交官に関する取扱いについても条約を定めています。それが、外交関係条約(正式名称は、外交関係に関するウィーン条約、1961年)になります。
2018年時点で、日本を含む192ヵ国が外交関係条約を加盟/批准しています(*参考1)。2020年現在、日本が承認している国の数が196ヵ国となるので、ほぼ全ての国が外交関係条約に加盟していることになります。
「外交関係条約に加盟していない国には不逮捕特権などの外交特権は適用されないの?」と思う方もいるかもしれませんが、外交関係条約は、中世よりヨーロッパを中心とした各国で形成されてきた外交特権に関する習慣を条約という法律に明文化したものになります。そのため、加盟国でなくても国際慣習法としてルールが適用される可能性はあります。国際慣習法などの話は難しいと思いますが、ひとまず「外交特権の根拠は外交関係条約」ということを理解してもらえばいいと思います!
領事関係条約という条約も根拠の一つとなる
冒頭の会話で、「領事官(領事)」という言葉も使いましたが、領事官も領事関係条約(正式名称は、領事関係に関するウィーン条約、1963年)によって不逮捕特権などのルールが規定されています。
裁判権が免除されたり、不逮捕特権などは国際法上「特権免除」と言います。ニュースなどでは外交官と領事官をあまり区別して報道していることはないですが、外交官と領事によって特権免除の範囲、つまり免除される度合いなどが異なってきます。
外交官の主な役割は相手国との折衝になります。そのため、自国の代表者として、①代表説と、②機能説という2つの立場から特権免除が認められているとされます。
一方で領事の主な役割は、相手国との交渉というよりは、相手国に住む自国民の対応やパスワード、ビザの発行など事務的なものが多いです。そのため、機能説という立場から特権免除は認められていますが、外交官と比べると特権免除の度合いは小さくなっています。
特権免除の具体的な内容は?
外交官、領事官ともに、身体の不可侵や裁判権免除など様々な特権免除があります。
上記は外交官・領事の特権免除の内容の一例になります。今回は、不逮捕特権に関連して、①身体の不可侵と②裁判権免除について見ていきたいと思います。
身体の不可侵とは?
外交官や領事官にはまず、身体の不可侵という特権免除があります。身体の不可侵とは、警察に逮捕されたり留置所に入れられることを強制させられない権利になります。そのため、路駐したり交通事故を起こしたりしても逮捕されることはありません。
特に外交官の場合は、絶対不可侵となっており、受入国が外交官の身体の不可侵のための適切な措置をとる義務もあります。絶対不可侵ということは、犯罪を犯した外交官に対して逮捕することもできず、受入国ができることは「ペルソナ・ノン・グラータの通告」による退去要請のみになります。
一方で、領事官に対しても同様に身体の不可侵が保障されており、事件や事故などの犯罪を犯しても警察に逮捕されることはありません。しかしながら領事官の場合は外交官よりは緩く、重大犯罪を犯した場合には逮捕・抑留も認められています。
裁判権免除とは?
さらに、外交官、領事官には裁判権免除も認められています。まず外交官の場合には、刑事裁判権は絶対免除の対象となります。また、公務の範囲内で民事・行政裁判権も免除されるとされています。この免除は、出国時まで存続するとされています。国外に出国してしまえば受入国はどうしようもないので、もう裁判できないということになってしまいます。ただ、人的事故を引き起こした場合、被害を受けた相手がいるため、損害賠償責任自体はなくならないとしており、国際法上外交官を派遣した国が裁判権免除を放棄することで賠償含めてしっかりと解決をするべきとしています。しかしながら、外交官がこれまで引き起こした事件などを見てもらうと分かると思いますが、そうなっていないことも多くあります。
一方で、領事官の場合は裁判権免除が適用されない範囲も大きくなります。特に、民事裁判権については適用されず、外交官に比べると受入国が裁判を起こしやすくなります。
どうして不逮捕特権などの特権免除が認められるの?
罪を犯したにも関わらず逮捕されたり裁判にかけられたりしないなど、一見理不尽なルールに見えますが、なぜ特権免除が外交官や領事官に認められているのでしょうか?
特権免除が認められる根拠については既に①代表説や②機能説などの考え方があることを紹介しました。また、世界には独裁国家や価値観や法体系の全く異なる国家が多くあります。もし外交関係条約などのルールがなかったとすると、自分たちにとって都合の悪い相手国の外交官を難癖つけて逮捕・拘束したり死刑にしたりなどがまかり通ってしまいます。そのようなことがないようにするために外交官や領事官についてはルールを設けて不逮捕特権などの特権免除が認められているのです。